マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第34冊目
『誰でも出来る 余興と演芸』 丸山柳太郎編著 愛隆堂 昭和38年
この本は昭和38年の発行。本棚にこの本を見た時、なんでこんな本が? と思いました。
余興と演芸の手引書です。夫にはたぶんまったく縁がないはずです。歌うとか踊るとか、見たことがありません。でも本に付箋が貼ってありました。「『忍ぶ恋路』の踊りかた」を教えているページです。
女形の扮装をして、首をかしげ思い悩む女のシナ、暗がり道を行く心持ちでマタタキをする時の目のやり場などが、分かりやすく書いてあります。どこかで踊ったのかな? と思うと笑いだしそうになりました。本人は気がついていなかったと思いますが、動作の中に相当面白いものを持っているなと思ったことがありました。
昭和30年代といえば今一番昭和を懐かしむころでしょうか。それから社会も生活もまったく様変わりしてきました。本をパラパラとめくりながら、最初は、昔の本でもう今となっては必要もないだろうと思いましたが、いえいえ盛りだくさんな内容とその時代の空気に触れて、だんだん面白くなって来ました。人が集まって大いに騒いで楽しく過ごしてくださいという著者の願いも伝わって来ました。
このコロナの世の中に、当時のようなにぎやかな楽しい時間がこの先持てるのかどうか分かりませんが、人々がどう暮らしていたのか、どんなことで体の中に愉快が湧き上がって来て元気になるのかなどにも思いが馳せります。ほんと何の不安も捨て去って遊びたいものです。
人は何かといえば集まっていました。大勢の人が集まった時のゲームを紹介しましょう。選ばれた二人が目隠しをして夫と妻になります。妻は「あなた」と呼んで見えない夫を追いかける。夫は必ず「なんだい」と答えて妻から逃げる、そういうゲーム。他の人たちは円陣になって二人を見守ります。場は盛り上がるようですよ。
ひとりの時あるいは友だちと一緒の時など、トランプ占いとかしましたね。思ってる人との相性はいいのか、相手の心はどうなのかなど、いい運勢が出るまでカードをきっては並べしました。
憂鬱で気が滅入ってる時は、笑話。
妻「先生、夫が耳がガンガン鳴ると申します」
医者「しばらく海にでも行くんですな」
妻「先生それは無理です。夫は忙しいんですから」
医者「いやいや、あなたが行くんですよ」
著者は他にもたくさんの余興を紹介しています。
浪曲、手品、クイズ、香具師のタンカ、民謡、中でも、はやり唄(流行歌かな?)から小唄、端唄、都々逸、長唄、清元、新内、常磐津、歌沢、義太夫と、今ではほとんど聞かなくなった日本のいろいろな音楽が、この本の半分近いページを占めています。
これらはそれぞれどんな歌で、どんな時に、どう歌うかをこまやかに教えてくれます。生活の中にこのように多くの邦楽が残ってそれぞれが区別されていた時代、それはそんな昔でもなかったんだという気もして来ます。日本は本来生活のすみずみまで、こんなに豊かな文化の国なのです。
田崎 敬子
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