新精選 東京の居酒屋 太田和彦 著 2001 はじめ文庫の本棚から

マイクロライブラリー はじめ文庫

『新精選 東京の居酒屋』 太田和彦 著

マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第57冊目

『新精選 東京の居酒屋』 太田和彦 著 2001

 

1月もはや中旬、時は刻々と流れていきます。おめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

年明けから、同窓の新年会の酒場探しをしていまして、もちろん安くて居心地のいい店を探すのですが、ネットで探すのに疲れたので、本棚から東京の居酒屋の本を抜き出してきました。53軒を紹介していますが、載せきれなかった店も多くあり、また残念なことに閉店した店もあります。わたしも数えたら、12軒の戸をくぐっていました。10軒知ってれば、居酒屋通のようです。

 居酒屋の良さは古くて、うまい日本酒が飲めること。酒の染み込んだカウンター、独特の空気と居心地、座るだけで気持ちが安らぎ、華やぎを覚えます。まずは、ほ〜っとしましょう。

 居酒屋の理想の形は家族経営だそうです。主人、お母さん、奥さん、娘さんという家族が、永年のお馴染みさんのために、わずかな利益でありながら、良心的な商売を黙々と続けている、そんな店を残したいという著者の使命感が、この本には詰まっています。

 東京の居酒屋は「みますや」に始まり、「みますや」に終わると言われる、神田「みますや」。明治創業で、高級化することなく、大衆酒場を続けている。
 一つの時代の空気がそのままに残る、月島「岸田屋」。ここに行けば昔があると書いています。自分の生まれる以前に身を置いているような懐かしさだそうです、そこに落ち着きを覚えて盃を傾ける愉しさ。

 酒 : 肴は、51 : 49という奥義を守り、さめてもおいしいものを作る、森下「山利喜」。
 風呂上がりのさっぱりさ、スカッとした啖呵の切れ、東京っ子の粋と野暮の筋を通している、湯島「シンスケ」。
 明治大正の居酒屋で酒を飲んでいるような、神楽坂「伊勢藤」。燗は人肌、夏はややぬるく、冬はやや熱い。商家の質実、武家の格、茶室の好みが入り混じり、こだわりが徹底している。

 江戸=東京人の美学を存分に味わえる、根岸「鍵屋」は、女性だけで行くと入れてくれない。昔の家を拭きこんで大切に使い、無駄口たたかず、一見そっけない気働き。煮こごりを肴に燗酒を一杯やる時、男一人の人生の充実を感じると、著者は書いています。

 最近は居酒屋も深化しています。しみじみ飲むとか、酔っ払うために飲むのでなく、レストラン感覚で酒と料理を味わうという、ワインバー、フランス料理の感覚になっているようです。日本酒は食べながら飲むという食中酒ですし、最近は日本酒はどんどんうまくなっていて、ブランドではなく、今一番の飲み頃を選ぶという楽しみに変わっているのです。大塚「こなから」、代々木上原「笹吟」、下北沢「とぶさかな」などを紹介しています。

 知らない町に行っていい居酒屋を見つけると、得した気分になります。昔のことですが、夕暮れ時に数人で田舎の駅に降りて、居酒屋を探したことがありました。駅前なのに商店も食堂も何もない、民家ばかりがぱらぱらと並ぶ小道に、街灯がぼんやり灯っているようなところでした。はじめ氏は足早に前を歩いて行き、向こうの角を曲がって消えましたが、しばらくして、「あった」と言って、戻ってきました。飲み助は鼻がいいそうで、酒の匂いを嗅ぎ分けるのだそうです。夜の闇に消えてしまいそうな記憶を思い出しました。

田崎 敬子

はじめ文庫(マイクロライブラリー)は、毎月第3土曜日曜12:00-18:00 オープンしています。

読書でもおしゃべりでもご自由にお使いください。

タイトルとURLをコピーしました