マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第16冊目
海炭市叙景 佐藤泰志著 小学館文庫 2010
この本は小説です。年始に、1月2月に朗読する本探しをする宿題があり、友人や家族に声をかけて自分の労力をちゃっかりと楽にしていたのですが、それもすでに終わった今ごろになって、札幌に住む娘から、そういえばこんなのあるよ、はじめ文庫の小説のあたりで背表紙が青っぽい、北海道の話で冬、と言ってきました。さっそく読み始めました。内容と文体にドキドキして止められなかったので、いっきに読んでしまいました。
海炭(かいたん)市という、函館を思わせる架空の町が舞台です。海に囲まれ、低い山があり、繁華街があり、市電が走り、山の上に墓地がある。そんな町の地図の中から、そこで暮らしている人々、兄妹、夫婦、親子らを拾い出し、その周辺の人たちにも焦点をあて、それぞれを短編につくっています。誰も幸せばかりではありません。誰もこころに説明したくないものを持っています。それぞれは見知らぬ他人だけど、町の中では隣人です。そんな一編一編の叙景を、山の上の墓地から、先人が見下ろし見つめているようにも感じられます。わたしのこともあなたのことも、また一片の短編として付け加えられるような、そんな気もしました。
著者はこの本を半分書いたところで亡くなり、それで未完に終わっています。話のひとつひとつは完結しているので何も違和感はありませんが、残された夏と秋にはどんな人たちが登場してきただろうと想像してしまいます。
この本は映画になったようです。見られた方はおられますか? 函館市民を中心に製作実行委員会が発足し、北海道出身の熊切和嘉監督で製作され、2010年12月に公開されたようです。東京ではユーロスペース(渋谷)で公開されました。第23回シネマニラ国際映画祭グランプリ、最優秀俳優賞を受賞、その他多くの賞を獲得しました。
田崎 敬子
価格:770円 |
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