哲学の東北 中沢新一著 青土社 1995 はじめ文庫の本棚から

マイクロライブラリー はじめ文庫

マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第24冊目

哲学の東北 中沢新一著 青土社 1995

 

宗教学者である中沢新一は、岩手県花巻に生まれた宮沢賢治にずっと関心をいだいています。魂というものは、自然から人へ、人から人へ、何の見返りを求めることなく贈り与えられるものであって、宮沢賢治という人は稀に見る純粋さで、このような精神に生きた人であると言っています。

宮沢賢治が生きている時に出版された、『イーハトーヴ童話 注文の多い料理店』の序文には、次のような言葉があります。「わたくしのおはなしはみんな林や野原や鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです」と。彼は、自然や素朴な人びとの心の動き、それらすべてを包み込んでいる宇宙から、その無償の贈り物をうけて、それを今度はわたしたち人間に無償で贈ってくれたのです。先の序文の最後はこうなっています。「わたくしはこれらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることをどんなに願うかわかりません」と。

2011年第1回井のいちで、宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」を朗読した時、それまでこの人のことも作品もあまり身近ではありませんでした。違和感はあるし、よく分からないというのが正直なとこでした。ですが、作品世界にいったん踏み込んでみると、どんどん引き寄せられて、輝く鉱石を見つけてしまうのです。いったいどういう人だったのでしょう。

この本は、ジャンルはそれぞれ異なるけれども、賢治に惹かれている人たちや共通するものを持っている人たちとの対談を載せています。国文学者、哲学者、宮沢賢治に目覚め盛岡へ移住した人、修験者、踊る農業という舞踏の活動をされている人などさまざま変わった人たちです。宮沢賢治自身、どのジャンルにもおさまりきらない越境している人です。境界がない。著者は東北の村々を歩いているうちに、宮沢賢治という人のことを深く考えるようになっていったと言うのです。

田崎 敬子



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