マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第32冊目
『妖怪学新考』 小松和彦著 講談社学術文庫 2015
暑中お見舞い申し上げます。
暑いので前回に引き続き少しでも涼しくなる本をと思いましたが、妖怪を研究することは人間の心また人間社会を研究することだという冷静な著作です。
妖怪とは何でしょうか。日本人は大昔から人間や動物や器物などすべてのものに霊的な存在を認めてきました。それらはすべて「神」になるか「妖怪」になるかの可能性を持っています。人間にまつられると「神」、まつられないと「妖怪」です。ですからタヌキも祀られるかどうかで「神」になったり「妖怪」になったりします。不思議で不安を掻き立てているときは妖怪ですが、悪さをしないときは神だというわけです。
数年前、仕事先の社員の女性が結婚して新居のアパートに入居しましたが、間もなく別のアパートに引っ越しました。変なおじさんが出ると言っていました。変なとは幽霊ってことです。彼女は愛嬌のある可愛らしい、誰にも明るい気分をもたらす人で、自転車のサドルがなくなっているのに、乗ってしまったりする人なのです。
「おじいさん?」と聞くと、「いえ、もっと若いですが青年ほどではありません。部屋の隅に立ってるんです」といいます。見ず知らずの人が自分の家にいたらびっくり仰天ですよね。「ご主人は?」と聞くと、「居ました。一緒に寝ていました」と言います。それならまだよかった一人じゃなくてとちょっと安心しました。
ご主人は刑事さんなので、もし泥棒だったら運の悪い泥棒になるところでしたが、幽霊を逮捕した刑事の話は聞いたことがありません。「足はあった?」と私は肝心なことを聞きました。「ありました」と彼女は答えました。「じゃあ歩けるわね。その人はすぐ消えたの?」内心私は自転車のサドルを持って行ったのはこの幽霊かと思いました。彼女の返事は、「いいえ。その人は夫と私の間に入ってきたんです」「ひえ〜」急に寒くなりました。
それからしばらくして二人はそのアパートから引っ越しました。
私の母が昔語ってくれた夢の話があります。母の祖母が亡くなってから、毎晩のように祖母が夢に出てくる。それが棺桶の中から起き上がってくるのが5日6日と続いたそうです。寝るのも怖くてたまらなかった母は、祖母が何か言いたいことがあるのかもしれない、今夜また出てきたら「何かヨーカイ?」と聞いてみようと思ってその日は寝たそうです。
その夜も祖母はいつものように現れました。そしてその日は母に向かって棺桶から出てきたのです。母は気を強く持ちました。見ると、踏み出た足元に、足がありません。母はびっくりして「おばあちゃん、足がないわーね」と叫びました。そこで目が覚めました。それ以来その夢を見なくなったと言っておりました。
妖怪たちは暗がりの少なくなった現代にあって、とても生きづらくなっていますが、時代が変わっても人間がいる限り、形を変えて生き続けます。妖怪は過疎の山の中から人が住む都市に場所を変えました。人間がいる限り妖怪は存在するのです。人間の心の闇が棲みかになるのです。もし妖怪がいない時代が来たら、その時代は人間がいないか、人間が人間で無くなってしまった時代だと、著者は締めくくっています。
田崎 敬子
※こちらの投稿は8月9日の投稿を記事化したものです。
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妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心 (講談社学術文庫) [ 小松 和彦 ] 価格:1,221円 |