マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第14冊目
『奇妙な情熱にかられて ーミニチュア・境界線・贋物・蒐集』春日武彦著 集英社新書 2005
夫が亡くなった時、家にはすごい量のガラクタが残されました。
日々の暮らしから分かってはいたけれど、回顧展の用意と引越しの準備が重なってあったので、出てきたものを一つひとつ見ることになり、無意味でささいで呆れるようなものに寄せた夫の心情に、笑ったりあきれたりしながら、まだその辺に残っている情熱の煽りにめまいを起こしそうでした。だいぶ処分しましたが、手元に残ってあるものをそう簡単に捨てられません。何かをだいじにしたいと思っているのですが、それが何かはまだ薄ぼんやりしています。
この本のタイトルを見たとき、奇妙な情熱・ミニチュア・境界線・蒐集などの言葉が強く気にかかりました。著者は産婦人科医から精神科医に転じた人です。ささいだけど切実なことにいだく情熱や好奇心、そんな心の働きについて考えています。その核には真実のカケラが埋め込まれていて、そこからリアルなものが立ち上がってくると言うのです。
昔駅前の皮膚科に長く通ったことがあり、最後の診療が終わって去る時、診察室の中のいつもは閉まっているカーテンがたまたま空いていて、何とその奥の壁一面に、ゼロ戦の模型が陳列されていました。棚は特別注文したものでした。その日で診察が終わってしまうのが残念に思われたことです。
どなたにもなぜか分からないけど好きなもの、集めているもの、だいじにしているものなどおありでしょう。
また境界線にこだわってしまうとかありませんか。そんなことをちょっと考えてみようと思ったら、この本を開いてみてください。
田崎 敬子
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