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猫の客 平出隆著 河出書房新社 2001 はじめ文庫の本棚から

マイクロライブラリー はじめ文庫

猫の客 平出隆著 河出書房新社 2001 はじめ文庫の本棚から

マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第35冊目

『猫の客』 平出隆著 河出書房新社 2001

 

家の窓の外のブロック塀の上や庭に、たまに白い猫が現れます。年増な感じの落ち着いたやさしそうな猫です。近所の家の飼い猫でしょう。呼べばやってきそうですが、実は私は生き物には臆病なので、「遊びに来たの? どこの子?」と声だけかけて、その心情はどっちが猫かわからない感じです。

ある日、庭に出て伸びすぎた雑草を引き抜いて適当なところで家に入ろうとしたら、その白い猫がいつの間に家の中におりました。窓を開け放していたのです。「ありゃ!」と叫んで、この時は家の主は猫かと思いました。

「足、拭いた?」と私は庭から聞きました。猫は返事をしませんでしたが、振り返った姿で私の方を見てそのまま庭に下りると「出かけてくるよ」って感じで出て行きました。

家の庭は、暑い季節にはトカゲの家族が自由に行き来するし、いろんな虫も生活しているので、もし猫がそんなおみやげを持ってきたらヤバイなと思って、それから網戸は必ず閉めるようにしました。その網戸の上方に、その猫がおなかをこっちにして張り付いていた時はまたびっくりしましたが、どうもヤモリを捕まえようと這い上がったに違いありません。

『猫の客』の夫婦は、やってきた近所の飼い猫をお客さんとして迎え入れます。そのうちうちの猫と間違えそうになるほど猫との交流は深まって行きます。偶然が作った細い川が流れはじめます。

稲妻小路となづけた家のすぐ外の小路。そこの板塀のふし穴から差し込む光が、台所の隅の曇りガラスに人や生き物の影を映し出します。

まだ古い家が残っていた頃の環境や風景、時代の移り変わり、生き死になどが静かに丁寧に書かれた小説です。

1990年前後のことです。ああ、あの頃かと自分が過ごしてた頃のことなど思い出してみるのもいいかもしれません。

田崎 敬子

はじめ文庫(マイクロライブラリー)は、毎月第3土曜日曜12:00-18:00 オープンしています。

読書でもおしゃべりでもご自由にお使いください。

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