マイクロライブラリー はじめ文庫の本棚から 第31冊目
『江戸の小さな神々』 宮田登著 青土社 1989
先日江古田へ行った時、前よく行ってた居酒屋食堂おしどりが閉店していました。この店に初めて行った時、入り口の戸を押しても引いても動かなくて、後ろから来た客が取っ手に手を当て、軽がるスイーッと横に引きあけたので、運よく入ることができました。西荻窪の戎(えびす)、根岸の鍵屋、日暮里の川村など、その町に行くと足を向けてしまう店がいくつかあります。共通点は神様がいる感じといいますか、気分よく飲んで話に花が咲いて福々とした時間を過ごせます。呑兵衛なだけか!
この『江戸の小さな神々』は、その土地や家や子どもを守っているお稲荷さんやお地蔵さんの話です。今でも私たちのまわりには多くの小さな神々がいます。古い家の敷地の中や道端だけでなく、都心の立ち並ぶビルの谷間にも、大きな道路の脇にも、新しく建った住宅街の道にも、赤い鳥居や石のキツネや地蔵やらが不意に現れたりします。
これだけ工事ばかりして風景が変わっていく東京でも、いつからそこにあるのか廃れずにひっそりと透明な空気感を漂わせています。きれいに清掃されて祭られているのです。そうやって祭ることはそこの土地が守られていることを感じさせます。なぜそこにその稲荷があるのか地蔵がいるのか、必ず言われがあります。
暮らしの中で、伝染病や災難など悲しい辛いことが起きたあとに、人々の願いや感情が込められて建てられ、ですからこれらは権力の命令で造られたものではなく、人々の生活の中で精神の営みとして造られたのです。
しかし神々をないがしろにするとタタリが起きます。妖怪も現れてきます。七不思議も出現してきます。夏の夜にはそんな怖〜い話をして涼しくなってはいかがでしょう。また福の神とか自由自在に神さまを作って、楽しくお参りするという発想も日本の民俗信仰にはあるようです。頭が痛くなれば頭痛の神様をこしらえ、受かりますように勝ちますようにという神さまをこしらえ、なんとか豊かに楽しく暮らしていこうという楽天的な風潮が日本にはあるようですよ。
田崎 敬子
※こちらの投稿は8月1日の投稿を記事化したものです。
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